森で生活するテンは、夜行性の動物で目にふれる機会は多くありません。テンはイタチの仲間。姿形はイタチとよく似ています。
テンは夏と冬で毛の色が変わります。上の写真は夏毛に変わったテンです。顔に注目してください。黒いですね。これが夏毛のテンの特徴(とくちょう)です。
体全体の毛も抜け落ちて、暑い季節を少しでも涼(すず)しく過ごそうとしています。そのせいで、夏毛のテンはちょっとみすぼらしい感じに見えます。
この写真は4月の終わりに撮影したテンです。さきほどのテンと比べると顔が白く、体全体はふさふさした毛に包まれています。
顔をよく見ると、鼻のまわりが黒くなっています。冬の間、テンの顔は真っ白になってとても美しい姿になります。春になるとだんだんと白い顔が黒く変わってゆくのです。このときのテンは、冬毛から夏毛への移り変わりの途中(とちゅう)というわけです。
さて、テンの足を見てください。ネコの足のような、発達した肉球(にくきゅう)が見られます。それと鋭(するど)い爪(つめ)を持っています。
テンは森の小動物をエサにします。ネズミをよく食べるようです。動物だけでなく、果実(かじつ)なども好物(こうぶつ)です。秋の信州ではリンゴをよく食べています。
野鳥の子育ての季節には、鳥の巣を襲(おそ)ってヒナを食べてしまいます。襲われたヒナには不運(ふうん)なことですが、すべての森の生きものは食ったり食われたりの運命(うんめい)の中に暮らしています。そうして森全体の生きものの数がバランスよく保たれているのです。
これはテンに襲われたアカゲラ(キツツキの仲間)の巣です。この写真の1週間前までは、親鳥がヒナにエサを運んでいました。巣穴(すあな)の中では元気なヒナの声が聞こえていました。
先ほどの写真で見たように、テンの足は木登りに適した形になっており、高いところでも平気でのぼってゆきます。地上から3mほどのアカゲラの巣までのぼることは、テンにとっては何の問題もありません。
問題は、アカゲラがあけた巣穴がテンの体を入れるには小さすぎたこと。この巣の不運(ふうん)は、ブナの樹皮(じゅひ)が薄くなった部分に作られていたことでした。テンは、その薄い部分を歯と爪を使って横から穴を開け、見事に中にいる丸々としたヒナをぜんぶ食べてしまったのでした。
そのテンも、大型の哺乳類や鳥にねらわれています。人間もテンをつかまえて、毛皮や筆に利用しています。そんなテンという動物が但馬の森にすんでいることを、ぜひ覚えておいてください。