6本足の昆虫にくらべ、8本足のクモはきらわれものです。毒々(どくどく)しい模様(もよう)、長い足で音もなくはいずりまわる、糸で獲物(えもの)をグルグルまきにしムシャムシャ食べる。
そんなクモの中で、トリノフンダマシと呼ばれるグループはとても魅力的(みりょくてき)な姿をしており、夏の夜の世界をひっそりと暮らしています。
トリノフンダマシの仲間は、日中は葉の裏にかくれてじっと身をひそめており、なかなか見つけることができません。夜になると活動をはじめ、網を張ってガなどの獲物(えもの)をとらえます。
このグループの代表格で、但馬でも最も普通にみられるトリノフンダマシというクモです。白く光沢(こうたく)のある体は、長さ1センチほど。昼間、足を縮めてじっとしていると、葉っぱに付いた鳥のフンのように見えます。
そのことから、トリノフンダマシと名前が付きました。しかしながら、天敵(てんてき)に狙われる日中は葉の裏に隠れているので、鳥のフンに化けて身を守っているという説も、どうやらあやしいと考えられています。
アカイロトリノフンダマシです。こうなると、もう鳥のフンには見えません。テントウムシは臭い汁を出すのでそれを食べる天敵は多くありません。このクモは、そのテントウムシに化けているのではないかとも言われています。
ちょっと珍しいシロオビトリノフンダマシです。白い帯が特徴です。
体の大きいオオトリノフンダマシです。左右の大きな目玉模様から、カマキリに化けているといわれています。
この写真で左上にいる小さなクモ、これがオオトリノフンダマシのオスです。クモはメスの方が体が大きいのが普通ですが、オオトリノフンダマシはメスとオスの大きさがこれだけ違います。
夏も終わりに近づくと、トリノフンダマシは卵をうみます。卵のまわりは何重にも糸でグルグル巻きにして、太い糸で葉っぱの裏にぶらさげます。これを「卵のう」(らんのう)といいます。
やがてその中で卵から子グモがかえり、卵のうを破って外にゾロゾロと出てくるのです。秋にかえった子グモはそのまま冬を越し、春になると活動をはじめて次第に大きくなってゆきます。
この長細い卵のうはオオトリノフンダマシのものです。クモによって卵のうの形が違っているのも面白いですね。
夏の夜は虫の世界。その虫を食べるクモも、夏の夜を代表する生きものなのです。そして、クモの中にも、こんな姿をしているものがいることを知ってください。
その美しい姿にかくされた、身を守るための工夫(くふう)に、自然界の巧妙(こうみょう)さを感じてもらえればと思います。
写真・文 コウノトリ市民研究所 高橋 信