3月の終わり、六方田んぼにいち早く戻ってくる渡り鳥がコチドリです。スズメくらいの大きさで、目のまわりの黄色いリングが美しい夏鳥です。
春から初夏にかけて、湿地周辺の土や砂利の上に粗末な産座をこしらえて、その中に3~4個の卵を産みます。不思議なことに、コチドリは新しい土や砂利のある場所を選んで、そこに卵を産みます。感染などのリスクを回避するためとも言われています。
今年の梅雨は思いがけず早く明け、7月初旬から35℃を越える猛暑日が続きました。六方田んぼの円山川堤防沿いに、台風23号災害による円山川河川工事の土砂の一次置場があります。現在は盛土が順次崩されて、土砂の搬出作業が続いています。
真夏のそんな工事現場で、コチドリの抱卵姿を見つけました。一次繁殖に失敗したのか、2度目の繁殖なのか、車道のすぐ近くの露天で卵を温めています。
卵の数は3個で、産卵場所の状況はこの写真から分かると思います。土砂置場の水たまりがビオトープとなっており、その湿地の干上がった土の上に、細かい砂利を円周に並べて産座にしています。
抱卵を確認してから1週間後には2羽が孵化し、翌日には残りの1羽も孵化しました。他のチドリもそうですが、コチドリのヒナは生まれてすぐに自分の力で歩きだし、すぐに巣を離れてゆきます。むき出しの地面の同じ場所にじっとしていれば、すぐに天敵に見つかってやられてしまうからです。
孵化3日後のヒナの姿を湿地の中で見つけました。小さな体に不釣合いな逞しい足です。生まれてすぐに、親鳥と同じように地上を走り回ることができるのです。
近くの親鳥は危険が迫ると鳴いて知らせ、ヒナは地上に伏せて身じろぎもしません。伏せた羽根模様は見事に土と一体化して、ちょっとやそっとでは見つけることができません。
一瞬のすきをついて、ヒナは猛ダッシュで危険から遠ざかってゆきます。走るその姿は、いわゆるチドリ足。ジグザグに走り去ってゆくその小さな姿は、実にほほえましいです。
ヒナの大きさが分かるように、私の親指と比べてみました。親指の先くらいしかありません。
この先、ヒナたちにはたくさんの危険が待ち受けています。弱い者は淘汰され、強い者だけが生き残る自然界の掟。秋風とともに南に渡ってゆき、春になると再びここに戻ってきて、また新しい命が生まれます。
写真・文 コウノトリ市民研究所 高橋 信