氷ノ山から扇ノ山にかけての深い山域は、イヌワシの生息地として知られています。生息数は非常に少なく、絶滅が危惧されている希少種です。これまで何度も、氷ノ山や扇ノ山には登山で訪れたことがありますが、イヌワシとは一度も遭遇することがありませんでした。
今年の夏、1羽のイヌワシが人目につきやすい高原スキー場に頻繁に姿を見せるようになり、ようやく観察のチャンスに恵まれました。ポイントに到着した途端、稜線から大きなワシがゆっくり舞い降りてくるのを見て、大慌てでカメラを構えました。
色だけ見ればトビによく似ていますが、広げた翼の幅は2mにもなり、飛ぶ姿はトビと比べて格段に大きく見えます。また、尾羽の先端が、トビはバチ状に凹んでいるのが特徴ですが、イヌワシはそうではありません。
ゆっくり滑空してリフトの鉄柱に止まりました。ここを餌待ちの見張り台にしている様子です。地上を覗いながら、1時間ほど同じ場所に留まりました。上空をたくさんのツバメが行き交います。
やがて狩を諦めて一直線に北の方角へと飛び出し、途中で大きく旋回しながら視界から消えて行きました。
イヌワシはノウサギやヘビといった草原性の動物を主食にしているとされますが、但馬山岳で爆発的に増殖しているシカの死骸などを餌にしている可能性があります。シカが増えて生態系にネガティブな影響を与えていますが、イヌワシやクマタカといった森の大型猛禽類の餌環境としては、プラスに作用しているのかもしれません。今回、人に近い場所にイヌワシが姿を現したのも、そんな事情があるのかもしれません。
写真・文 コウノトリ市民研究所 高橋 信