コサメビタキという小鳥がいます。森の中に入らないと見られない夏鳥で、色も地味(じみ)ですから、知っている人は少ないと思います。こんな鳥が毎年日本の森でヒナをかえし、子育てが終われば南の国に戻ってゆきます。
7月はじめ、人里離れた森でコサメビタキの巣を見つけました。クルミの高い木の枝に、おわん型のきれいな巣を作っています。巣の外側はコケがはりつけてあり、木の一部に見せかけて外敵の目をくらますくふうをしています。
2週間後、ヒナが生まれていました。エサを求めるヒナの黄色いくちばしが、望遠鏡でよく見えます。ヒナはぜんぶで3羽いました。左はしは親鳥です。
さらに1週間たちました。ヒナの成長はおどろくほどはやいです。羽も伸び、体も親と変わらないくらいに大きくなりました。
左はしは親鳥です。
この頃になると、ヒナはしきりに巣の中で羽ばたきをするようになります。空を飛ぶ準備をはじめているのです。巣立ちはもう目前です。
ヒナがお尻を巣の外に向け、親がヒナのお尻に顔を近づけました。次の瞬間、ヒナが出した糞(ふん)を親がくちばしで直接つかんだのす。
巣の中をクリーンにすることと、糞(ふん)が巣の近くに付いていると天敵(てんてき)に見つかりやすいので、親鳥はヒナの糞(ふん)をくわえて、巣から離れたところまで運んで捨てます。
ヒナは巣立つと自力でエサをとるようになり、さらに体をたくましくしながら、夏の終わりには旅立ってゆきます。それまでに天敵(てんてき)にやられてしまうものもいますし、長い旅の途中で事故にあう鳥もいます。
生まれる数と死ぬ数と、自然界はうまくバランスをとりあいながら回っているのです。
写真・文 コウノトリ市民研究所 高橋 信