すでに新聞記事でも紹介され、Web上にたくさんの写真が出ていますので今更ではありますが、世界で3000羽ほどしか生息していない絶滅寸前種の、貴重な越冬飛来記録をここにも残しておきます。
2014年10月22日午後、野外コウノトリのモニタ員が豊岡市街地の円山川河川敷で発見。コウノトリの郷公園の職員によってソデグロヅル幼鳥と同定されました。これは初認時の写真ですが、雨の夕方だったので少し不鮮明です。大型のコウノトリを見慣れている私でも、ソデグロヅルの大きさに驚きました。翼を広げると2.5m近くありそうです。
飛来当初より、六方田んぼ周辺に生息中のコウノトリと関わり合う仕草を見せたソデグロヅルでしたが、百合地地区のコウノトリ繁殖ペアの巣塔の真下で行動をするようになりました。不思議なことに、繁殖期に入ったコウノトリペアも、ソデグロヅルの接近を許すようになりました。
飛来からしばらくの間、ソデグロヅルのねぐら場所は円山川左岸の決まった浅瀬でしたが、冬が本格化すると六方田んぼの堪水田でねぐら入りするようになりました。
左は百合地ペアのメスのコウノトリで、最初の繁殖に失敗したあと、2度目の繁殖で1羽のヒナを巣立たせました。しかし不運なことに、そのヒナも一ヶ月経たないうちに事故で死んでしまいます。
一方のソデグロヅルは、当年生まれの幼鳥で、本来であれば親と一緒に大陸の越冬地で過ごしているはずでした。何らかの理由で単独で日本に迷い込み、豊岡まで飛んで来たのですが、自分の親に姿が似ているコウノトリが偶然そこに居ました。
そんな百合地のコウノトリと迷行ソデグロヅルの間に、通じ合う何かがあったのではないかと想像していますが、勝手な人間の思い込みに過ぎないのかもしれません。
年末年始、六方田んぼに40センチの雪がつもりました。雪に埋もれた田んぼで、ソデグロヅルは一生懸命餌を探し続けていましたが、その姿は健気であり、幼いながらも野生の強かさを感じたものです。
冬も半ばを過ぎ、ソデグロヅルは畦の上でしきりに「ダンス」を踊るようになりました。研究者によれば、「遊び」でよくやる行動とのこと。成鳥のペアで見られる求愛行動にも似たこの幼鳥の「ダンス」は、大人への第一歩を示す成長のプロセスなのでしょう。
六方田んぼですっかり人気者になったソデグロヅルは、人気のない北極圏生まれの鳥らしい警戒心の薄さを持ちあわせています。驚かせないよう適度な距離を保って観察していると、相手の方から近寄ってくることもあります。
日本で越冬中のツルの北帰行が始まりました。六方田んぼで冬を過ごしたソデグロヅルも、そろそろ故郷へ向かう気持ちが高まってくる頃でしょう。あと少しの残り時間を、当地で平和に過ごしてほしいものです。観察者はそっと見守りながら、この幼いツルの迫り来る長い旅路の安全を願ってやりましょう。
写真・文 コウノトリ市民研究所 高橋 信